河原町のまちづくりをコーディネート 黒田恵子さんにインタビュー

「アート」を切り口にしたまちづくりで全国的にも知られる小さな町がある。熊本市の河原町である。河原町では月に一回、クリエイターやアーティストたちが作品を発表する「アートの日」を開き、若者たちの店舗でにぎわいを取り戻しつつある。今回は、同町でまちづくりのコーディネート役を務め、自身もギャラリーカフェを開く黒田恵子さんに、河原町での取り組みや若者に対する期待などを伺った。

「アート」でまちづくり

――なぜ、河原町にギャラリーカフェを開こうと思ったのですか?

私は東京で12年間暮らし、モデルやタレントを経て、フラワーコーディネーターとして働いていましたが、きっかけがありに熊本に戻ってきました。当初、熊本でも、フラワーコーディネーターとして仕事をしたいと思っていたのですが、熊本は東京とは違い、当時は市場に出回っている花の品数も少なく、色んな意味でこれまでのように同じ仕事ができないという壁にぶつかりました。

それで、何か自分が生かせる仕事はないかと探し、ボランティアやバイトなどをしていました。そのころ、昔ながらの知人と偶然再会し、その知人から河原町というシャッター街に店を誘致するイベントを行っているという話を聞きました。そして、実際に河原町に行ってみたところ、その町の光景に衝撃が走ったのです。そこには、まるで昭和初期の町並みがそのまま残っていました。私は熊本にこんな町があったのかと思い、たちまち河原町のことが好きになりました。

当時、河原町では「クリエイターの町にしよう」という有志によるまちづくりが始まろうとしていました。古い町に新しい仕掛けをつくるという試みがとても面白く、自分もやってみようと思ったのがきっかけです。

そこで、クリエイターの町にするのなら、そういう人が集まれるギャラリーがいいと思いました。しかし、ギャラリーだけでは一般の人にとってはきっかけがないので、カフェをくっつけて「ギャラリーカフェ」として出発することにしたのです。

――カフェの2階にギャラリーがありますが、黒田さんのギャラリーの特徴は何ですか?

うちのギャラリーの特徴は、まず光の雰囲気がいいところです。最初に見たときに雰囲気がとてもよかったので、今でもほとんど手をつけていません。また、ギャラリーを見に来た人たちからは「おばあちゃんの家に来たみたい」とよく言われます。アートをとても身近に感じてもらいやすい空間になっています。

また、ギャラリーでは絵の展示だけでなく、演劇を行ったりもします。従来の大きなホールとはまったく距離感が違い、演者も観客もヘンな緊張感があって、とても刺激的で面白いです。

決して設備が整ったギャラリーではありませんが、若手のクリエイターたちが気軽に使えて、ゼロからイチへの一歩を踏み出せる場になればと思っています。

――河原町ではアートを切り口にしたまちづくりを行っていますが、具体的にはこれまでどのような活動をしてこられたのですか?

河原町をクリエイターの町にしようという動きは今から10年ほど前に始まりました。最初はデザイナーや絵本作家、建築家など約10人が集まり、アートに関するイベントに取り組みました。しかし、イベントを開催するのに大変手間がかかり、次第に継続ができなくなりました。

そこで、今から6年前、従来のイベントをあらためて、なるべく手間をかけずにできるイベントにしようということで始まったのが「アートの日」です。

アートの日では、イベントの告知だけをやって、後は参加したい人が自分から連絡してくるようなスタイルで取り組みました。最初は身内だけの参加でしたが、そこから徐々に広がり、今では毎回30人ほどのクリエイターやアーティストたちが参加するイベントになりました。

2年前からは「アサヒ・アート・フェスティバル(AAF)」という(株)アサヒビールの文化支援事業にも採択され、全国的にも河原町の取り組みが知られるようになりました。

――これまでの活動を通して得られたものはありますか?

やってよかったなと思うのは、この活動を通して、アートをより身近なものとして広げることができたという点です。

というのも、ここに来るクリエイターやアーティストたちは、最初ここにしか表現の場がありませんでした。それが、アートの日に参加してお客様と話をしたり、自分の表現力をよくも悪くも人に評価されたりすることを通して、みんなが自信をつけ始めたのです。そして今では、メディアや百貨店のイベントなどでみんな引っ張りだこになっています。

また、アートの日を見に来てくれたお客様が、クリエイターたちの作品を見て、「自分たちも何かしたくなるよね!」と話しているのを見ると、とてもうれしくなります。アートというものが、人々のコミュニケーションを豊かにする一つのきっかけになれればと思っています。

――河原町が熊本の中で果たす役割についてどう考えていますか?

熊本にはすばらしい文化がたくさんあります。でも、どこか表面的な町おこしや景観整備が多いような気がします。地元にはまだまだ知られない伝統芸能や文化資源がたくさんあります。それらを今生きている人たちが、次の世代に継承していくことが大切なのではないかと考えています。

地域で暮らす人たちにとって、「ここは文化が根付いていてとても素敵な町だな」と思える町にしていくこと。それが私たちの使命だと思っています。

そのために、アートの力を通してできることはたくさんあると思っています。例えば、以前、ある琵琶(びわ)の演奏家が熊本に来たとき、琵琶だけでなく、現代の音を象徴するベースと組み合わせて、「今と昔の音」ということでライブをやったりしました。このように、昔のものと現代のものをかけあわせてみることで、伝統芸能に触れる新たなきっかけが生まれたりします。

また、今年7月には、熊本市動植物園で地域の人たちに、桃太郎を題材にした熊本の伝統的な「能」を披露する予定です。今後さらに、アートという切り口で熊本のことをもっと知ってもらい、熊本を盛り上げていけるアートの祭典も開催する準備をしています。

――黒田さんにとって「アート」とは何ですか?

私は、アートとは「今を精一杯生きている姿のこと」だと思っています。人はいろいろな人とのかかわりの中で生きているので、何かしら表現をする必要があります。それは、家族に「おはよう」とか「ありがとう」と言うのと同じです。

スポーツにしろ、何にしろ、感動するのは、そこに精一杯生きている姿があるからですよね。そういう意味では、私は誰もが「表現者」になれると思っています。もちろん、表現者といっても、みんなが絵や音楽といったアートをするわけではありません。私は、人それぞれに表現できる道というものがあると思っています。

――これから未来を担う学生や若者に一言メッセージをお願いします。

忍耐力を持ってほしいと思います。自分がこれをやりたいと思ったら、それを信じてほしいです。自分の感覚を自分が断念してしまうと、自分を裏切ることになります。

何かをやりたいと思い、自分を信じて頑張るためには忍耐力が必要です。一度乗り越えて達成感を得ると、それがいい習慣に変わっていきます。何か一つだけでも、自分を信じて決めたことを達成するという力を養ってほしいと思います。

――どうもありがとうございました。


若手クリエイターたちが集う黒田さんのギャラリー

【財(たから)なキーワード】
「私は、アートとは『今を精一杯生きている姿のこと』だと思っています。そういう意味では、人は誰しも『表現者』になれるのです。人それぞれに表現できる道というものがあると思っています」

●プロフィール
【くろだ・けいこ】熊本市生まれ。熊本女子商業高等学校(現・国府高校)を卒業後、上京し、3年間、タレントなど芸能関係の仕事に携わる。その後、絵画の販売などを経て、6年間、フラワーコーディネーターを務める。熊本市へ帰郷後、「河原町」に出会い、2004年、同町にギャラリーと喫茶の店「GALLERY ADO(アドゥ)」を開店。現在、河原町AAF実行委員会事務局長を務める。

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