映画革命HINAMI 黒川裕一さんにインタビュー

一般の人たちが映画づくりに参画することを通し、熊本での「人づくり」と「まちづくり」を行うとする映画づくりプロジェクト「HINAMI」。さらに、HINAMIが運営する「ひなみ塾」では、単に目先の受験勉強を教えるのではなく、人間力を向上させるための知性・感性を養うための場として、英語を中心に、国語、数学、そして武道まで学べるという。今回は「HINAMI」や「ひなみ塾」について、これまでの経緯や取り組み、その意義について話を伺った。

熊本で“映画づくり”

――HINAMIの歴史を教えてください。

2005年にHINAMIが誕生し、年間1本の長編映画を撮ることにしました。第1作「HINAMI」は8月に18日間かけて撮影し、翌年1月の上映会に3000人を動員しました。2006年8月に第2作「みんなの日記」を撮影しました。

その年の9月にアクティング&コミュニケーション「HINAMI六秒塾」を始めました。翌年9月に、「映画で学ぶ英語」を創設し、その年は長編を2本撮りました。

そして、08年にフィルムスクール「監督コース」を創設したのです。5作目の「ヒノマル戦隊ドースンジャー」は、彼らが中心になって撮影した作品です。

そして、09年に「六秒塾」と「ことばの学校」を統合し、「ひなみ塾」が誕生しました。そして、その年の8月に「DPコース」、12月に「編集コース」を創設しました。

――映画づくりと並行して成長してきた「ひなみ塾」ですが、創設理由を教えてください。

「知性」と「感性」は裏表の関係です。学べば学ぶほど感受性が上がります。逆に、わからないことは感じようがありません。先日、「ひなみ大学」という講座で「笑いとユーモア」という授業をしました。

その授業では、“笑いの毒”について解説しました。笑いの毒というのは、第三者を下げることで仲間意識を醸成するという非常に卑劣な行いのことです。そのことをきちんと理解した上で、今日のお笑い番組を実際に見てみると、酷すぎて笑えません。

解説を聞いた後は、このことに気づきます。これは、解説を聞いて自分の感受性が変わったのです。そういうことを学んでこそ、本当に厚みのある感受性が育つわけです。

ですから、その授業を受けたあとに、ある受講生は「知性と感性が、別々ではなくて同じことだと身にしみてわかった」と書いてくれました。私は「良き学びが良き感性を育て、その結果、感動の多い人生をもたらしてくれる」と信じています。だから、ひなみ塾を運営しているのです。

――小学生には英語を教えないのはなぜですか?

きちんと国語ができていない中で英語を教える一番のリスクは、情緒不安定です。母国語の言語力が低いと、問題解決力は言語力に比例するので、言語力が低い子は“切れやすい”傾向があります。帰国子女の多くが情緒不安定というデータもあります。発音だけは、身体の能力なので小学校のクラスでも教えますが、英語は教えません。

一方、外国人と接しているときに、一番尊敬される人は、母国の文化をきちんと理解して体現している人です。日本人なのに「源氏物語」や「俳句」を知らないのかという話になったりします。その点、私が良かったのは「武道家」であることです。海外では、武道家ということで扱いが変わりました。

アメリカは基本的に水平の関係です。でも、いざ武道をするというときに、「教えてください」と、態度がガラッと変わります。水平社会と言われるアメリカであっても、きちんと敬意をもって接してくるのです。そのほかフランスでも、“東洋からきた先生”ということで武道を教えた子どもたちにサインを求められたこともありました。こうしたことが起こるのは、日本人として「自国の文化」をきちんと継承しているからです。

――武道クラス「如水(じょすい)」について教えてください。

武道クラスの子どもたちの姿を見て、とくに私には(武道における)“弟子”がいますが、彼らの姿をみて、お父さんお母さんが「うちの子もこうなってほしい」と思うようです。

あるとき、子どもを連れてきたお母さんがいました。そのお母さんは、塾でどんな教育をしているのだろうと興味を持ったようです。その後、塾に入るか迷って相談してきた同級生に対して、彼は「自分がやりたかったらやったらいい」と言いました。そしてその見学しに来た同級生は、入塾を志望してきたのです。

彼は、掃除の取り組み、挨拶のしかたも違っています。しつけの根本は、親が行うものです。ただ、良き先輩、後輩、同輩に囲まれる中で、団体行動が身につくことが一番自然な形だと思っています。そのように、コミュニティの中で自然に学ぶのです。親だけではなくて、いろんな人の背中を見せるというのが、ベストな選択だと思います。

――ひなみ塾の「アドバイザー制度」とはどういうものですか?

スタッフとは別に、「アドバイザー」という制度を導入しました。アドバイザーは、塾生にとって、すぐ目の前を走る先輩です。「活気」というものを生み出してくれるのは、直近直前の先輩の存在です。

アドバイザーは、後輩の模範となり、塾生の身近な目標となり、彼らを支える経験を通し、履修した内容が深く定着し、視野の広さ、思いやり、行動力など、人としての成長が促されます。塾長とスタッフは、塾生に授業内容から物事への取り組み方全般を指導し、受講料補助を受けます。

現在、小中学生のアドバイザーが五人います。2年後は、アドバイザーは全員、小中高校生にします。 働いてお金を稼ぐことの厳しさや尊さを原体験として知っていれば、まず、きちんと仕事をする人に育ちます。しかも、絶対にお金を大事にします。

ここでの仕事は、並大抵ではありません。私は仕事に関しては厳しいので、きちんとしないと絶対に許しません。受講料補助という形ではありますが、お金をもらっている以上、「小学生だから」という言い訳はできません。アドバイザーという立場があるので、年齢は関係ないのです。

最終的に、私が核ではなく、彼らの「先輩力」がどんどん向上していくことで“先輩力コミュニティ”みたいなものが核である空間にしたいと思っています。

――黒川代表にとって「ひなみ塾」の塾生はどういう存在ですか?

僕にとっては、家族を超えた「族」ですね。とんでもなく緊密なコミュニティだと思います。例えば、塾生で腎臓移植が必要になれば喜んで私の臓器を提供します。つまり、命と命の関係です。そして、スタッフに対しては、自立させることが一番の愛情だと思っています。

僕は、塾生に対しては非常に厳しく接します。しかし、彼らは「僕に会いに来ている」という自信があります。子どもは、「怖い」と「好き」が両立できるのです。

――未来を担う大学生や若者にメッセージをお願いします。

僕は『仲間』とは、「同じ目的、目標をもって明るく楽しく全力でそれに向かっていく人たち」と定義しています。僕は、細かいことはどうでも良くて、明るく楽しく全力であることを大切にしています。暗い人は感謝が足りないと思うのです。感謝があったら不服そうな顔はできないですよね。根本に感謝があれば、必ず笑顔になります。

――どうもありがとうございました。

 

 

 

 

英語クラスの授業後に塾生と会話する黒川氏

 【財(たから)なキーワード】
「私は『良き学びが良き感性を育て、その結果、感動の多い人生をもたらしてくれる』と信じています。だから、ひなみ塾を運営しているのです」

プロフィール
【くろかわ・ゆういち】1972年生まれ。熊本市出身。東京大法学部卒業後、22歳で映画監督を目指し渡米。インディ系の映画製作に携わりつつテネシー州立メンフィス大に助手として勤務。97年、同大ミュニケーション学修士号を取得(映画専攻)。2003年、サンダンス・NHK国際映像作家賞の最優秀作品賞候補にノミネート。大学のテキストなど、語学関連の書籍も多数執筆。

映画革命HINAMIのホームページはこちら