「安全な水道水」確立 富家和男さんにインタビュー

“水の都”として知られる「熊本市」。日本国内を見ても、水道水を100%、地下水だけでまかなっている都市は、人口50万人以上の規模では熊本市以外にはないという。ただ、その豊富できれいな地下水も、それをつくり出してきた「自然環境」や「近世の農業システム」などに対する無知から、量質ともに深刻な低下をもたらしているという。今回は、以前、熊本大の参与を務め、現在も学生たちに「地下水」などの水資源についての講義を行う富家和男氏に話を伺った。

「安全な水道水」確立

――もともとは「水」の専門家ではなかったとのことですが、これまでの仕事の経緯などを教えて下さい。

私は、熊本大で「電気化学」を勉強しました。恩師の竹井先生の勧めで湯浅電池に入社、最初の10年間は燃料電池の研究に従事しました。

その後の10年は、米国アイオニクス社との合弁会社、湯浅アイオニクスを立ち上げ、川崎重工の排煙脱硫装置に芒硝(ぼうしょう)電解プラントを組みこみ、九州電力豊前火力発電所に納入しました。

この芒硝電解プラントは、イオン交換膜を用いた大規模なもので、世界初の技術でした。この仕事がきっかけで、三井物産が立ち上げたイオン交換膜法による食塩電解専門会社に籍を移し、「水銀法」から「イオン交換膜法」への製法転換の仕事に関わりました。

一方、大阪や東京の大都市の水道は、原水の河川水の汚染が進行し、滅菌に大量の「塩素」が用いられ、発がん性物質の生成が懸念されていました。この問題解決に、「オゾン」処理技術の導入を企画、実行したのです。

そこで、スイスの重電メーカー「BBC」とオゾン技術の導入契約を結び、オゾン事業をスタートしました。大学、地方自治体、重電メーカー、水処理メーカーなどが参加して、「日本オゾン協会」が設立され、本格的にオゾンが水道の滅菌処理に導入されることになりました。

この「オゾン」に「活性炭」を組み合わせた浄水処理法を「高度浄水処理」と名づけ、大阪、東京の全ての浄水場に導入され、その結果、安全でおいしい水道水が供給されることとなりました。

この事業の導入、実施に貢献したということで「日本オゾン協会」から「功労賞」をいただきました。

――熊本は水道水も含め「水」がきれいだと言われますが、問題はないのでしょうか?

私は水道に関わるようになって、熊本の「地下水」に問題があることがわかりました。一つは「硝酸性窒素」という汚染物質です。この物質は、1リットル中に10ミリグラム以上検出されると飲料水として供給できないという水道法の水質基準があります。

汚染の原因は「窒素肥料」と「家畜の排せつ物」です。熊本は上流の泗水のあたりで畜産業が盛んで、これまでは、家畜の排せつ物の処理がされず、野積みにしていたようです。その影響が考えられます。

地下水の水質、水量の保全に熊本大も積極的に関わるように提案して、川越先生を迎えることができました。熊本市の水道局と企業にも参加してもらい、熊本水道研究会を立ち上げ、約10年が経過しました。その間、熊本地下水の保全に関して、学位論文にまとめました。

現在も、熊本大の非常勤講師として、「水資源」「水循環」の講義をしています。

――今後、水資源を守る上での提案や大学の果たすべき役割は?

水道料金の中に「受益者負担分」を上乗せして、そのお金を「地下水の保全」のために使うよう提案します。具体的には、家畜の排せつ物の始末や涵養(かんよう)水田の整備などに取り組んだらいいと思います。

大阪や東京は汚れた河川水から水道水を作るのに大変な努力をしています。コストもかかります。熊本は地下水をくみ上げて、少量の塩素滅菌で水道水が作れます。コストも大阪や東京のようにかからないと思います。

熊本大は「地下水センター」の研究機関を充実させ、世界中から研究者がやってくるようにしてはどうかと思っています。中国、インド、バングラデシュなど地下水の浄化を必要とする地域は今後も増大します。

――水資源は、九州の「州都」を決める際にも影響を及ぼしますか?

福岡はすでに「水量」の関係で、これ以上、人口増加に対応できません。

一方、熊本は地下水のおかげで今の2倍程度の人口増加に対応できます。ただし、地下水の保全に努めることが前提となります。涵養地域である大津や菊陽の水田の確保、減反政策の見直しによる地下水涵養量の改善が重要です。

加藤清正公が白川に多くの堰(せき)を計画、敷設して大津、菊陽地域に広大な「水田」を作ったことが地下水涵養の基礎になっています。

この地域の水田は、地下への浸透が良く、地元では「ざる田」と呼ぶほど水が地下へ浸透します。その分、田植えでは、代(しろ)かきが大変といわれています。この地域は地下水にとって自然の巨大な「ろ過装置」だと言えます。

この自然のろ過装置は、十数万年前に阿蘇が大爆発をした時の火砕流、火山灰の堆積によって数十メートル層が形成されたことによります。熊本市の地下には、「約7億トン」の地下水があります。

メディアなどで取り上げられている八ッ場ダムが完成しても、せいぜい1億トンの貯水量と言われています。いかに大量の地下水があるかがわかると思います。

現在、100万人に年間約1億トン(日量30万トン)を供給しています。上記の涵養水田が保全されれば、この量は供給できます。

そのほかにも、水田以外(山林や草地、畑地など)からの涵養量が同じ程度期待できますので、余裕があります。熊本は地下水を大事にして、その時を待つことになります。

熊本城の築城の際、120本の井戸を掘り、いざという時の水の確保に備えていました。そのように、このことは都市全体においても同じなのです。

――どうもありがとうございました。

【財(たから)なキーワード】
「熊本は地下水のおかげで、今の2倍程度の人口増加に対応できます。ただし、地下水の保全に努めることが前提となります。」


天然の“ろ過装置”の役割を果たしてきた水田(菊池郡菊陽町)

プロフィール
【とみいえ・かずお1936年、中国・大連生まれ。終戦で芦北郡久木野村に引き揚げ。60年、熊本大工学部工業化学科卒業。湯浅電池入社。82年、三井物産関連企業に移り、イオン交換膜法食塩電解、オゾン浄水処理事業に関わる。2005年から6年間、熊本大の参与を務め、その間、地下水保全に関する学位を取得。現在、同大非常勤講師として「水資源」「水循環」の講義を担当。神奈川県南足柄市在住。